第89回富丘会総会特別企画―講演者によるカウントダウン・コラム第一回
<日銀のマイナス金利政策は効果があるのか/日銀はマイナス金利政策を続けるのか>
河野龍太郎(87済:BNPパリバ証券チーフエコノミスト)
本来、金融緩和とは、銀行の資本コスト低下を通じ、家計や企業の借入金利を低下させ、消費や投資を刺激する政策。マイナス金利で金融機関のコストを増やしたのでは、むしろ景気抑制的です。銀行がコストを転嫁すれば企業などが支払う羽目になり、転嫁できなければ銀行業績が悪化します。ただ、マイナス金利で円安が進めば株高メリットもあり、デメリットを相殺する可能性はあります。それがマイナス金利の狙いでしたが、円安株高にならなかったため、デメリットばかりが目立ちました。円高が進めば、今後も実施されるでしょうが、果たして上手く行くのか。為替効果は世界全体ではゼロサムで、日本が円安を欲する時、他国も通貨安を欲しています。
加藤出(88済:東短リサーチチーフエコノミスト)
効果は限られると思います。第一に、金利低下の効果のひとつは、将来の消費や投資を手前に持ってくる“前借り”効果にあります。しかし、すでに超低金利下での“前借り”は長く行われ、かつ生産年齢人口が顕著に減少していく中では、“前借り”できるものがあまり残っていません。第二に、米国や中国が自国通貨高に不寛容になったので、マイナス金利による円安効果は限られます。2013年4月に始まった異次元緩和策は「2年でインフレを2%にする」との短期決戦型の勝負でしたが既に4年目に入っています。短期決戦で終われず泥沼化する流れは、第二次大戦時の構図を彷彿とさせます。日銀はあらためて目標設定と戦略の再検討を行うべきでしょう。
熊野英生(H2済:第一生命経済研究所主席エコノミスト)
マイナス金利政策は、失敗策である。日米金利差を拡大させることはできるが、インフレ予想を強めることはできない。最近のようなドル安の流れの中では、円安圧力はかき消されてしまう。失敗策である理由は、「北風政策」の思想にある。例えば、日本国債に投資をすると、マイナス金利になるからといって金融機関が外債購入に動くだろうか。マイナス金利でリスクテイクの力量が低下してしまうのに、外債購入でより大きなリスクを引き受けるだろうか。思考実験として、消費者が、貯蓄に課税されて、消費を増やすかどうかを考えればよい。所得が増えないとダメだ。消費者がお金を使いたい気持ちになることが最重要である。北風政策より太陽政策だ。